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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)14350号 判決 1987年2月26日

原告 株式会社 田畑工業所

右代表者代表取締役 田畑實

右訴訟代理人弁護士 嶋倉夫

被告 株式会社 富士銀行

右代表者代表取締役 荒木義朗

右訴訟代理人弁護士 大森惠一

主文

一  訴外応用水研株式会社が被告に対し、昭和五九年七月二六日なした別紙債権目録記載の債権の譲渡行為を取り消す。

二  被告は原告に対し、金八二四万一三七〇円及びこれに対する昭和六〇年一二月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文と同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は訴外応用水研株式会社(以下「応用水研」という。)に対し、昭和五九年六月一日ころ、金四〇〇万円を弁済期を次のとおり定めて貸し渡した。

同年一〇月から昭和六〇年一月まで毎月二〇日限り金一〇〇万円宛

2(一)  原告は、昭和五九年七月二五日までに、応用水研との間で、応用水研を注文者、原告を請負人として、地下水対策工事等請負契約を次の約定で締結した。

工事場所 請負代金

(1) 本八幡 金一四五万円

(2) 東郷神社前 金一三〇万円

(3) 秋葉原 金六七万円

(4) 本八幡 金二六〇万円

(5) 水天宮 金八〇万円

(合計金六八二万円)

(二) 原告は応用水研に対し、(一)(1)の工事につき昭和五九年四月三〇日、(一)(2)、(3)の各工事につき同年五月二〇日、(一)(4)の工事につき同年五月二〇日、(一)(5)の工事につき同年七月三〇日、完成して引き渡した。

3  応用水研は、昭和五九年七月二六日当時、債務超過の状態で、資金繰りに困窮し、別紙債権目録記載の債権(以下「本件債権」という。)を含む請負代金債権を有するほか、さしたる財産を有していず、同年九月二〇日、不渡手形を出して事実上倒産した。

4  応用水研は被告に対し、昭和五九年七月二六日、本件債権を含む主要受注先に対する現在及び将来の一切の請負代金債権を譲渡した。

5  その際、応用水研は、右債権譲渡により、原告の利益を害することを知っていた。

6  被告は、本訴提起までに、訴外西松建設株式会社から本件債権金八二四万一三七〇円の弁済を受けた。

7  よって、原告は被告に対し、詐害行為取消権に基づき、本件債権譲渡の取消を求めるとともに、金八二四万一三七〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一二月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は不知。

2  同3、4の事実は認める。

3  同5の事実は否認。

4  同6の事実は認める。

三  抗弁

1(一)  被告は応用水研に対し、昭和五九年七月二六日当時合計金二七七四万円の債権(手形買戻請求権金五七四万円、手形貸付金一四〇〇万円、証書貸付金八〇〇万円)を有していたところ、内金三五〇万円については弁済期が経過していた。

(二) 応用水研は被告に対し、被告から継続的に融資を受けて営業を継続する必要上、現在及び将来の債務の支払を担保するため、請求原因4のとおり債権譲渡をした。

(三) 応用水研は、被告から、昭和五九年七月二六日、金六〇〇万円の手形割引、同年八月二〇日、金九四三万五〇〇〇円の手形割引を受けた。

(四) したがって、右債権譲渡は、応用水研の営業継続のためのものであって、何ら詐害行為にあたるものではない。

2  被告は、右債権譲渡の際、原告の利益を害することを知らなかった。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  同2の事実は否認。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、請求原因1の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

二  《証拠省略》によれば、請求原因2(一)、(二)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  請求原因3、4の事実は当事者間に争いがない。

四  そこで、応用水研と被告間の債権譲渡行為が、応用水研により詐害意思をもって行われたか否か、客観的に詐害行為にあたるか否か、被告の詐害意思の有無について、以下検討する。

資産状態の悪化した債務者が、特定の債権者に既存債務のため担保を提供する行為は、他の一般債権者の利益を害することになるが、右債務者が営業の継続を図り、これを前提として資金の借入をなし、これに担保を提供する行為は借入額と担保物件の価格との間に合理的均衡が保たれている限り、一般債権者の利益を害するものではないと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  被告(取扱店新宿西口支店)の応用水研に対する融資の開始は、昭和五八年八月であり、平均融資残高は約金三〇〇〇万円であること。

2  応用水研は、融通手形を交付していた訴外大都機械株式会社の倒産の影響を受けて、昭和五九年五月中旬ころから資金繰りが悪化し、被告は、そのころ、応用水研から告知を受けて右事実を知ったこと。

3  応用水研は被告に対し、今後の受注見込を説明して融資を要請し、被告は応用水研に対し、昭和五九年五月、金一九〇万円の手形割引をしたこと。

4  被告は、応用水研に対し、昭和五九年七月二六日当時合計金二七七四万円の債権(手形買戻請求権金五七四万円、手形貸付金一四〇〇万円、証書貸付金八〇〇万円)を有していたところ、内金三五〇万円については弁済期が経過していて応用水研の信用が悪化していたこと及びこれまでさしたる担保の提供を受けていなかったことから、営業を継続する前提として、現在及び将来の債務の支払を担保するため、応用水研から本件債権を含む主要受注先に対する現在及び将来の一切の請負代金債権(現在高金五四九四万一〇〇〇円)の譲渡を受けたこと。

5  応用水研は、昭和五九年七月二六日、被告から金六〇〇万円の手形割引を受け、内金五五〇万円を被告に対する4の既存債務の弁済に充てたこと。

6  応用水研は、昭和五九年八月二〇日、被告から金九四三万五〇〇〇円の手形割引を受け、内金一八〇万円を被告に対する4の既存債務の弁済に充て、内金六八五万円を東京手形交換所に対する異議申立提供金に充てたこと。

7  6の割引手形のうち金五三〇万円分が不渡になったこと。

8  応用水研は、昭和五九年八月二一日以降、被告に融資の要請をすることなく、第三者に融資の要請をしていたこと。

9  応用水研は、昭和五九年九月一七、八日ころ、被告に対し、不渡手形の発生を予告したが、被告は何らの回避策を講じなかったこと。

10  被告は、応用水研に対する債権について、利息金約一〇万円を除き全て回収していること。

11  倒産時の応用水研の未払給料は金一一二五万一九一五円(約四か月分)、未払公租公課は金九一一万一四五〇円であったこと。

12  応用水研の代表取締役と被告の次長は、同郷かつ同窓(高等学校)の間柄であること。

右認定事実によれば、応用水研と被告間の債権譲渡は、客観的にみて一般債権者の利益を害するものということができ、応用水研は、右債権譲渡の際、原告の利益を害することを知っていたものと認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

被告は、右債権譲渡の際、原告の利益を害することを知らなかった旨主張するけれども、本件全証拠によるも未だ認めることはできない。

五  請求原因6の事実は当事者間に争いがない。

六  訴状送達の日の翌日が昭和六〇年一二月五日であることは記録上明らかである。

七  以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

なお、仮執行の宣言の申立については、相当でないから、これを却下する。

(裁判官 渡邉了造)

<以下省略>

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